ネムリの物語

ユキと共に、ゴールデンボールブリッジのトレーナー達を突破して
ニドラン♀と合体し、ニドランニューハーフとなっていたマサキを救出。
いくつかの情報を貰ったカイト達。

ハナダシティに戻ってきた彼らの前に立ちはだかるのは、
水タイプを専門として扱うハナダシティジム…
ではなく、ヤマブキシティ北ゲートの警備員であった。

「頭固いな、ここの警備員は」
「飲み物あげたら通してくれる。とかだったら、楽なんでしょうけどね」
「そんな事があるわけないだろ」
「それもそうですね。おとなしく地下通路から通り抜けましょうか」

誰が設置したのかは分からないが
ヤマブキシティの地下を通り抜けてハナダシティとクチバシティを結ぶ地下通路を通り抜け
彼らはさっさとクチバシティへとたどり着く。

カントー地方最大の港町としてヤマブキシティと他地方を結ぶ中継点であるクチバシティは
その重要性から日夜再開発が行われており、港町がもつ喧騒と重なる事で
とても騒がしい街となっていた。

そんな中、世界周遊を続ける豪華客船サントアンヌ号の年に1度の来訪。
船上パーティはもとより、街そのものもお祭り状態になっているのであった。

「チケットのない私達は入れませんが、楽しそうな雰囲気ですね」
「そうだな。世界中のトレーナーと戦ってみたかったけど…」

チケットが無い以上、サントアンヌ号への乗船は認められない。
となれば、この街でやるべきことはジムへの挑戦となるのが定石なのだが
看過できない問題が1つ残っていた。

「でんきタイプ専門とか辛すぎるんだよな」
「新しい仲間を見つけるしかないのでは?」
「そうだな…挑戦を見送って新しい仲間増やすか。今のままじゃ相性が悪すぎる」
「私はこのまま挑戦…と思ったのですが、誰を仲間にするのかも気になりますね」

ジムへの挑戦は何時でもできる。
その為、少しぐらいなら遅れてもかまわないという事のようだ。

「16番道路の方へ抜けてみようと思ってる」
「釣りの名所ですね…また水タイプを増やすんですか?」
「いや、そこからシオンタウンに抜けてみるつもり」

シオンタウンに続く道は主に3通り。
ハナダシティからイワヤマトンネルを抜ける。
ヤマブキシティから徒歩。
クチバシティから釣りの名所…16番道路を経由して北上。

ヤマブキシティにはそもそも入れないし、クチバに居る今なら妥当だろう。
「ポケモンタワー、でしたっけ。ゴーストタイプのポケモンが出るとかいう」
「でんきタイプとの相性は可もなく不可もなく。戦力的によさそうだからね」

カントー地方で亡くなったポケモンを供養するために建てられたポケモンタワー。
そこにお参りに来たトレーナー達の想いか、別の要因か
ゴーストタイプのポケモンが唯一確認されている場所になっている。
そして、ゴーストタイプに明確な弱点は現在確認されていない。
となれば、捕獲さえできれば、大きな戦力として活躍が見込めるのだ。





そう、意気込んでいた。おおよそ30分前までは。
今現在、カイトとユキは全力で10番道路を走り回っている。

白と黒のマダラ模様の動く壁…カビゴンに追いかけまわされているのである。

「カビゴンって、こんなに、うごきまわるのかよ」
「ねぞうが、わるいって、こと、なんでしょうけど」

そう、相手は寝ている。寝ていて寝がえりを打っているだけ…の筈だ。
カイトのセイバー、それからユキのシードが、クロスに捕まった状態で上空から
カビゴンに何度も攻撃を加えているが、一切効果が見られない。

ただしくは、攻撃は通っている。ダメージは与えている。
だが、その影響が見られないのだ。

効かないなら効かないでいい。タイプ相性だ、なんだと理由が考えられる。
効いているのに影響が無い。

「これ、かいふく、されて、いるのか」
「ねむって、いるのと、かんけい、あるんで、しょうかね」

観察する暇と考える時間があれば、分かったのだろうが、追いかけまわされている今、暇も時間もない。
それどころか逃げる体力がそろそろ厳しい。

そんな時、どこからともなく笛の音が鳴り響いた。

「このふ、えのお、とはいっ、たいなんだ」
「よばれてる、きがします、ね。いきますよ!」


16番道路と10番道路を区切るように立っているゲート。
その入口に、1人の少年がたたずんでいた。
「こっちへ!ポケモンの笛で奴を起こすから、3人で一気に!」

彼の横にはリザードが、パワーをため込んでいる最中のようだった。
それを確認したカイトとユキの判断は早かった。
一瞬止まり意気を無理やり整えて、指示を出す。

「クロス!リザード横に、二匹を降ろせ!セイバー、攻撃準備!」
「シード、チャージ開始!」

セイバーは、口の中に放出する水をため込みはじめ、その隣で、周囲の光がシード…フシギダネへと収束してゆく。
そんなセイバーとシードを、リザードの隣へそっと降ろし、上空へと再び舞い上がるクロス。

どんなポケモンも目が覚めると言われるポケモンの笛の効果で、カビゴンが目を覚ます。
前後して4匹の攻撃準備も完了した。

「3!」
「2!」
「1!」
「「「撃て!」」」
カイトとユキはタイミングを合わせて、左右に飛び退く。
その間を、かえんほうしゃ、ソーラービーム、ハイドロポンプ、ドリルくちばしが通りぬけてゆく。

目が覚めたところに襲いかかる4つの技。
ようやく、カビゴンの動きが明確にダメージを受け、仰向けに停止する。
そのまま眠ろうとするが、ポケモンの笛の音によって、遮られ回復も出来ていない。

モンスターボールを投げるか、考えている間に、カビゴンは観念したかのように起き上がり、こちらを眺めた後
10番道路の北側にある森へとのしのし歩いて去っていった。

「一難去ったか…。ありがとう、助かった」
「大丈夫?なんか、すごく疲れてるけど」
「30分ほどずっと追いかけまわされてましたからね。私はユキ、そっちはカイトです。」
「カイトだ。よろしく頼む」
「僕はサトシ。2人ともよろしく!」

助けてくれたトレーナーと、ゲートの休憩所で談笑と情報交換を行う。

ニドランニューハーフのアイデアは、彼が出したものだと知るのに、そう時間はかからなかった。