センニュウの物語

―タマムシシティ―

ヤマブキシティの西側にあるカントー地方最大の経済都市。
ゲーム会社や、デパート、ポケモンジム等があるタマムシシティにカイトは来ていた。

デパートで色々買いあさった後に向かったタマムシシティジムを
クロスによる相性で蹂躙、バッジを貰い、外に出たところで、彼と出会った。

天を衝くような髪型に、漆黒のマントをつけた少年…ワタルに。
「君が、カイトだね?オレはワタル。ちょっと話がしたい」

ポケモンセンターに戻り、手持ちを回復させている間で、ワタルはセンター内の個室を借りてきたようだった。
通常、こういった個室は職員専用であり、借りる事が出来ない。
それだけの権限を持つ、ということなのだろう。

「悪いね。わざわざ付き合ってもらって」
「話の前にひとつ聞かせてほしい。君は、ワタルは、何者なんだ?」
「そこからか。俺はワタル。ポケモンリーグに所属しているポケモントレーナー、さ」

密売、強盗、その他犯罪行為を数多く行う秘密結社ロケット団。
そのアジトが、ここ、タマムシシティにある事までを突き止めたものの
具体的な場所が分からず、しかも戦力が無いと来て、ジム挑戦者をターゲットに声をかけていたそうだ。

「今、彼らは大きなことをやっているようだからね。アジトの警備は手薄と考えている」
「話は分かった。だが、協力するとは言ってないぞ」
「そうだね。オレもまだ、聞いてない」

屋内にもかかわらず、お互いに立ちあがり、腰のモンスターボールに手を伸ばす。
「まぁ、あいつらにはおつきみ山での借りがあるから、場所が分かるなら協力するが」
「手伝ってもらいたいのは、その場所探しからなんだけどね。仕方ない」
「ゲームセンターで時間つぶしでもしているから、連絡をくれ」

ボールから手を放し、カイトは部屋を出ていく。
その宣言通り、ゲームセンターへと足を向ける。

「プレイコインを買って、ゲームで増やし、隣の交換所で交換できる、か…」
ただし、購入そのものが専用のコインケースを入手する必要がある上、子供にはケースを売っていない。
結局、カイトにゲームセンターで遊ぶことはできない状況だった。
壁に寄りかかりながら、遊んでいる他の客を眺めながら、ワタルからの連絡を待つ。つもりだった。

カチッ

小さくも、機械が動く音が、カイトの耳に届いた。
ポスターに寄りかかる時にポスターにかぶっていたようだ。
そして、ポスターの裏に、何かのスイッチがあったか、押してしまったようだった。

その隣にあったはずの壁が無く、代わりに階段が地下へと続いていた。

「メンテナンス用ハッチ…?でもそれならなんで隠しているように…まさかな」
念の為、ワタルに連絡を入れて、内部へとその身を隠す。

入った直後にあったスイッチを押し、扉を閉める事も忘れない。
「蛇が出るか、虎が出るか…。行こう」

暗い階段を下りてゆく…。

二階分降りた頃から、周りが段々と明るくなってゆく。
カイトは、深呼吸して息を整えると、その中へと飛び込んだ。

「侵入者だ!…子供?なんで子供がこんなところに…」
その先に居たのは、ロケット団団員だった。
それを確認すると壁を背に、いつも通りの先鋒であるクロス…ではなく、二番手であり最初の相棒、カメールのセイバーを出す。
ロケット団員も、負けじとズバットを繰り出してきた。

「ロケット団!なんでこんなところに…セイバー、みずてっぽうで弾幕をはれ!」
「ゲーセンの地下は子供が来るような場所じゃないぜ!ズバット、きゅうけつ!」

ズバットは、きゅうけつする為に近づこうとしてくる。
そのズバットの進路を阻むように、セイバーはみずてっぽうを乱射する。

「は、下ががらあきなんだよ!」

上半分は、みずてっぽうによる弾幕で近づく事が出来ないが
ロケット団員の言うとおり、下半分は鳥ポケモンが通る為のように、無防備をさらしていた。
その空間をまっすぐにズバットが近づいてくる。
肝心のセイバーは、みずてっぽうを無理に乱射した反動か、避けるタイミングを過ぎていた。

「これに負けたら、おとなしくお家に帰りな!」
「…こうそくいどう、ドリルくちばし」

完全に避ける事の出来ないタイミング。
ズバットが攻撃に移る為、周囲を把握する為の超音波を出さなくなる瞬間を、槍が空間を貫いていた。

その槍…クロスは、勢いそのままにロケット団員が腰につけていた通信機も破壊してゆく。
「負けたら、どうするって?」
「ズバットが一撃だと…?なんて子供だ…。俺はお前を見ていないし、お前も俺を見ていない。いいな?」
「…何も聞こえない。」
「んだと!?」
「何も聞こえないし、誰も居ない。」

お互いに何も見ておらず、知らないのだから侵入は止められない。
それを無視したかのようにいうカイトを、ロケット団員は殴りかかりそうになるが
その後の言葉を聞いて、あげた拳を力なく降ろす。

「わかってるならいい。ほら、さっさと行け」

カイトは、その声を背にフロアの探検を開始してゆく。


薄暗い廊下を進んでいくと、やはり、ところどころにロケット団員が歩いていた。
物影に身体を隠しながら、奥へ奥へと進んでゆく。
とはいえ、侵入しているカイトには、これといった目的は無い。

ロケット団員をかたっぱしから戦っていけばいいのだろうが、初戦からみずてっぽうを乱射させたためPPが心もとない。
戦っていくのであれば、どこかで休んで休憩する必要があるのだが…。

「どうしたものかな…」
「誰だ!手を上げてこっちへこい」
「…見つかったか」

そっと呟いた声が聞こえてしまったようだ。
おとなしく声に従い、隠れていたドアの陰から部屋へと姿を現す。
「…ロケット団員ではないな」
「そうだな」
「侵入者か?」
「だとしたら?」
「だとしたら…、ワタルの手先か?」

部屋に居たのはロケット団員、の姿をしているが、何か雰囲気が違う。
「ワタルの知り合いか」
「そうだ。って、カイト?」
「ん?ユウキ?」

そのロケット団員は、ニビシティで別れたユウキだった。

「ワタルの協力者が、内部に潜入していたってことは…」
「うん?」
「本部の場所が分からないなんて事は…」
「ここがあいつら、ロケット団の本部、だよ。ワタルにも連絡済だ」

という事は、ワタルはゲームセンターにある事を知っていたから、入り込む事を予測して暇つぶしを認めたという事になる。
「やられた…」

手のひらで踊らされていたとはいえ、やるべき事まで見失うわけにはいかない。
と言いたいところではあるが、正直言えば、カイトには、これ以上の目的も目標もない。
ロケット団を叩く、という目的に対して、何をすればいいか分からない。と言うべきか。

「ユウキ、ポケモン達の回復をできる場所はあるか?」
「まさしくこの部屋が、そうさ」

よく見ると、部屋の奥、段ボールの影に回復装置が設置されていた。
手持ちのポケモン達を回復させながら、状況の整理をしていく。

「ワタルからの合図で暴れ出すのは予想していたけど、何をすれば目的達成になるんだ?」
「最上でボスの身柄確保。次点でここに居る全構成員の身柄確保」

見たこともないボスはともかく、あんな目立つ服装のロケット団員がゲームセンターから出入りしていたらもろバレにしかならない。
ということは、別の出入り口があると考えるべきで、ユウキも同じ考えに至っていたようだ。

「既に見つけてある出口はゲーセン以外に4つあるんだ。その内、3つはどこにつながっているか分かってない」
「外から止めれるのはゲーセン含めても2つだけか…」
「そう。気軽に出るわけにもいかないから、調べられなくてね」

団員服を着てなければ怪しまれる。着ていると、今度は外に出た時に怪しまれる。

「わかってるっていうのは?」
「マンションの裏口につながってた。着替えが出来る空間ってわけ」

ゲームセンターの出入口は、ここから出るまでの階段そのものが、着替える空間になっているという事なのだろう。
という事は、本部の中と外、どちらに着替える空間があるのかの判断も、若干難しい事になる。
潜入している身としては、そんな危険を冒すわけにはいかず、調べきれなかったとしても仕方ない。

「1ヶ所ずつ俺達が足止めするにしても、手が足りないな」
「そうなんだよ。だから、動けなかったんだ。…さっきまでは」
「さっきまで?どういうことだ?」
「とりあえず、用意したからこれを着てほしい」

手渡されたのは、ロケット団員の服。
服の上から羽織るように、着込むが大人サイズなのが幸いして、動きを阻害はされない程度に程良い着心地だった。
着替え終わるタイミングで、ドアがノックされる。

「どうぞ」
ユウキの声を合図に、ロケット団員が部屋に入ってくる。

「そいつが新入り?」
「ああ、紹介するよ。さっき到着した援軍、カイトだ」
「カイト?…釣りの名所以来だね!」

入ってきたロケット団員は見知った顔、カビゴンに襲われた時に助けてくれたサトシだった。
シオンタウンのポケモンタワーに登る為、シルフスコープを求めてロケット団に潜入しようとしたところを
ワタルに声を掛けられて、協力する事にしたらしい。

その実力は、リザードのしっぽの炎が以前より燃えている事を見ればレベル35ぐらいになっているのが分かる。
「僕たちそれぞれで、出口の分からない出入口を封鎖だったよね」

足止めが必要な出入口は3つ。
ここにいるメンバーも3人。
「1人ずつで、か…」
「カイト。出来ないって顔してるけど、大丈夫か?」
「大丈夫だと思うけど、確認してからだな」

そう言いながら、今の手持ちメンバーを確認する。

オニドリルのクロス、カメールのセイバー。
バタフリーのランドルフ、キュウコンのミヤビ。
何故かついてきたメタモンのメタちゃん。

押し寄せてくる人数次第ではあるが、問題なく対応出来そうだ。

「何とかなるだろう。ただ、場合によっては2人に流すさ」
「ん?メタモンか…面白い事を考えるね」

ユウキには何をしようとしているのか、分かってしまったようだ。


「ユウキ、カイト。ワタルと連絡取れたよ。明日の正午から。行ける?」
「「問題ない」」


翌日の封鎖する場所をそれぞれ確認、分担を決めてから、3人は眠りについた。