『8月21日00時00分までに、学長室に来て。ジリアン』
たった1行の短いメール。
だが、クラリスのお使いを終わらせた今、出かける動機としては十分である。
今現在クラリスの元で、ホムンクルスの研究を行っているものの
直属の上司であり、パートナーであるジリアンさんの招集は断る理由もない。
その為、向かおうとしているのだが車には何故かルミとクラリスが乗っていた。
「抜け駆けはだめですよー」
「ジリアンちゃんのところへいくのでしょう?」
「…3ヶ月ぶりの再会を邪魔しないでくださ・・・何でもありません」
クラリスを説得して降ろそうとしたが、一瞬眼が光ったように感じたので撤回。
この体のまま、無事に再会できなくては意味がない。
「そういえば、明日はあの子の誕生日だったわねぇ」
そうです。誕生日です。…誰の?
事ある毎に、命と体の無事に安堵しながら学長室にたどり着く。
時刻は指定された21日になる15分前。
「…おかえりなさい」
「ただいま、ジリアンさん」
それだけの言葉でつながる信頼関係。
でも、信頼関係が本物ならクラリスのところに預けないで欲しい。
「ついて来て…、みんなも」
学長室から出て、ジリアンの案内で体育館という名の実験場へ向かう。
そこに居るのは1人の少女と言うべきなのだろうか?
人造天使"イヴ"がたたずんでいた。
「ふ~ん、今年は貴方があの子のパートナーなのねぇ」
クラリスが意味深に、注射器を取り出している。
ルミも、同じように注射器を…大きさが1m以上あるんですけど?!
「ししょー、先に行きますよー。覚悟…じゃなくて、診察のお時間です!」
よたよたしながら、ルミが巨大注射器をこっちに向けて迫ってくる。
流石に逃げ…腕を放してもらえませんか?ジリアンさん。
「……」
何もないところでルミがこけた。
が、いつの間にかクラリーの姿が見当たらない。
「えいっ」
問答無用で注射器が背中に刺さり、血を抜かれる。
「血を抜かれるのは…」
気が付いたら ジリアンさんのひざの上に頭があった。
「……」
「大丈夫らしい…。でも、しばらくこのままで」
気が付いたなら、とジリアンさんは頭を滑らせるように動き立ち上がる。
スカートで、この位置に頭があると…いや、なんでもない。
黙って堪能しておこう。
「熱いですねー」
これはルミの冷か…し。
「全部見てたのか」
「もちろんですよー。おししょー様にも、言われてましたから」
そのルミの手にはビデオカメラ。
もちろん録画を示す赤いランプが点灯している。
「…ファイア」
データが残らないよう、ビデオカメラを丁重に燃やしておく事にする。
少し見たかったけど。
「お前がマスター?」
ルミの反対側に座っていた羽根を持つ少女。
それは、体育館で見たたたずんでいた少女だった。
「人造天使のイヴちゃんよ。可愛いでしょう?私のホムンクルスほどじゃないけれど」
「1年間、い~っぱい遊ぼうね!」
同じ日に生まれた二人の、出会いだった。
…のはいいけど、その誕生日が今日なんだけど血を抜かれただけですか?
クラリーと一緒に居て無事に生き延びたことが誕生日プレゼント。
それは確かに嬉しいですけれど…ってジリアンさん、どこに行くんですかーっ