「今日は…10月6日だろ。確か」
2008年10月6日 某パラケルススの塔
「ししょー様がとても楽しそうにしているんですけど、何かありましたっけ?」
日本における平日であり、現在居る場所でもやっぱり平日である。クラリスの誕生日も7月であり、結局のところ
「何も無いは・・・」
1つ頭に浮かぶもの。
「誰かの誕生日…か?」
慌ててアドレス帳を確認する。
10月6日 ステラ様
「…これだ。ステラ様の誕生日だ」
「ステラ様って、どこに居ましたっけ?」
記憶をたどる。
そして出てくる結論は、1つ。
「日本…だな」
「いってらっしゃい」
「は?!」
「分かるって事はお届けできるんですよね」
転送呪文は苦手だと言うのを知っていていいますか?貴女は。
「カイ、マスターが呼んでる」
そこに後ろからWorks274が声をかけてくる。
「了解、向かうよ」
塔の最上階、クラリスの部屋へと足を運ぶ。
いつ、何度きても、この部屋は緊張させてくれる。
「カイ、入ります…よ?」
「思ったより、早かったわねぇ。早速だけど、コレをステラちゃん達に届けてくれない?」
「これは…、届けても殺されませんよね?」
そこにある"コレ"。
それは、純白のメイド服。
そして、丁寧に巫女服まで用意されていた。
「…と、達というのは?」
「メイド服はステラちゃんのものだから大丈夫よ。」
メイド服『は』だそうだ。
「そういえば、前に着てましたね」
よく思い出せば、いつぞや天使に追い掛け回された時に、着ていたものだろう。
だが、巫女服がよく分からない。
「ステラちゃんと時々一緒に居る、彼からの依頼なのよ。貴方なら届けられるでしょ?」
顔は笑顔だが、目が笑っていない。
こういう時のクラリスに逆らうほど愚かな人間ではないので、おとなしく届けることにする。
「それは分かりましたよ。ところで、知っての通り転送魔術は苦手なんですが」
「頑張って♪」
…仕方ないので、最近落ち込んでるフレアに連絡を取り、日本へ飛ぶことにする。
「何やってるのよ。あの人たちは」
「経済部門よりも、収入上げるには、色々あるんだろ」
「まぁ、いいわ。横浜でいいのね?」
フレアの足元を中心に魔術陣が展開され、共に横浜へと降り立つ。
「…あぁ、久しぶり。渡すものがあるから来てくれ」
短く電話で呼び出す。
「お久しぶりですね」
15分後、"彼"が姿を現す。
…久しぶりに会うとこう代わった印象を受けるのか?
とりあえず、巫女服一式の入った箱を手渡す。
「悪いが時間が無い。物は確かに渡したぞ」
「えぇ、ありがとうございます。これで…何をしろというんですか。あの人は」
彼の困惑をよそに、フレアさんと再び転移する。
今日、誕生日の人の元へ。
「ステラ様!」
黒魔術師の名を冠する戦闘部門の長、ステラ・ブラヴァツキ。
…ではなく、リサに立っていた。
「お前達、何をやっているんだ?」
本命は、後ろに立っていた。
「こっちを向くんじゃないぞ」
向こうとしてその声で、慌ててリサの方を向いたままになる。
そのリサの手にあるのは、ステラ様の服と思しきもの。
「…納得しました。クラリス様からの指示で、服を届けに来たのですが」
「リサに預けておいてくれ。それと、なるべく早く部屋から出てもらえるか?」
大体、予想したとおりの状況なのかもしれない。
姿を想像はしないが。
「はーい。カイ、外でいいよね?」
フレアの返事を聞きつつ、メイド服をリサに預ける。
「リサ、これを頼む。それと」
一呼吸おいて、フレアとタイミングを合わせる。
「「誕生日、おめでとうございます!」」
そのまま、急いで部屋から脱出。
「任務も終わったし、どうするつもり?」
「終わったし…久しぶりの日本だ。指示が来るまで、遊んでてもいいんじゃないか?」
こうして、次の指示が来るまで、安全に生活する事になったのだった。