蠍座の癒し手

元々日本に居た頃から使っている家に、戻って約1ヶ月。
そして目の前に、何故か来客が数名。

「コーヒーでいいよね?」
「ちゃんとブランド物使ってよね」
「人の家に来て、それは流石にどうかと思うよ」
「ステラ様、大丈夫かな…」

この3人は、一体何をしに来たんだか。

「ジリアン様から貰ったものだから、大丈夫よ」
「…来た理由を聞こうか」
フレアが来訪者の前にコーヒーを置いていく。

「校長先生の指示よ。近く戦闘があるだろうから、手伝えって」
「それと、この家の掃除だったんですけれど、大丈夫そうですね」
「あ、ステラ様の許可も貰ってきてます」

「つまり、次の戦闘は俺とフレアさんに加えて、ルツィエにルカ、リサ…と、彼女達か」
一昨日、同じように現れた彼女達は、部屋に閉じこもり何かを必死に書いていた。
締め切りがどうとかいう話だから、戦い直前までは放置するつもりだが…。

「彼女?」
「あぁ、マギナ達だ」
「ふーん…、どこに居るの?」
聞くまでもなく、既に椅子にいない。

「待て、あの修羅場に手を出すな!」
「何でよ、どうしようと私の勝手じゃない!」
「その前に、俺の家だ」
フレアにも入らないようにしてもらっている部屋もある。
勝手に歩き回られた挙句、ジリアンさんの部屋を見られても困る。
「あの、二人ともやめない?」
「はぁ…、フレアさんは二人から話を聞いといて。ルツィエ、こっちだ」

開かれた『修羅場』
そこは一種の戦場ともいえる光景であった。

「マ、マギ…ナ?」

こちらを見向きもせず、紙に必死に何かを描いていくマギナ。
それを向かいで手伝っているのが…、一部から聖クララとも呼ばれるクララ・クロオーネだった。
「…」
「無言で抗議されても困るんだがな」

一昨日やってきたマギナは、部屋を貸してくれと言って勝手に上がりこみ
その上で、『年末に向けて』何かを必死に描きあげている。

遅れて昨日やってきたクララは、状況を見ると何も言わずに
マギナの手伝いに、入っていった。

「…というわけだ。止めようもないだろう?」
「二人が何をやっているのか、分かってて言っているんでしょうね?」
「内容は見ていないが、ある程度予想つくさ…。時期が時期だ」

聖戦とも呼ばれる、祭典の別名も持つイベントまでまもなく一ヶ月を切ろうとしていた。

「次の戦闘っていうのは、まさか、…じゃないよな?」
「ち、違うわよ!あんな…あんな本を、買いあさりたいだなんて思うわけないでしょ!」

違うが、ついでの目的として考えていたらしい。
「違うならいいさ。消し去る者との戦闘じゃないことを願うだけで…な。」


「みんな~、ケーキ焼いたんだけど食べないー?」
「マギナ、クララ様!休憩にして、息抜きにケーキでも…フレアさんが焼いてくれたみたいですし」

今日は11月28日。
それを知ってか知らずか、二人も手を止め応じてくれた。

そう、今日はクララの誕生日。
誕生日ぐらい襲撃がなくてもいいだろう。
そして、その日を楽しむことぐらい、許してくれるだろう。

「今年も、あと1ヶ月…か」

聖なる夜が、ゆっくりと近づいてきていた。