別途-Separately-

「年が…明けたのか」
「そうね 明けましておめでとう。そして」
「「今年もよろしくお願いします」」

ランドマークタワーの屋上でKAIとジリアンは新年を迎えていた。
ここ、ランドマークタワーはWIZ‐DOMの支部が存在する。
その影響もあり、忘年会から新年会まで4日連続でパーティが行われている。
そして二人とも、1時間ほど前までは会場に居た。
が、会場にタバコの煙などが溜まってきた為二人揃って逃げてきたのであった。

「ここに居たんですね」
二人の後ろから声が響く。
「…レダか……」
4魔導師の一人 風の魔道師“レダ・ブロンウィン”。そして…俺がマインドブレイクをした唯一の人物。
「私は席外すから また後で。ではレダ様 失礼しますね」
状況を察したのか何なのか ジリアンさんは会場へと戻っていった。
「あけましておめでとう、戒」
「あぁ あけましておめでとう…澪」
「やっと そうやって呼んでくれた。1年も待ってたのに」
一年・・・そんな昔になるのだろうか、極星帝国に俺達が襲われたあの日から・・・。


「戒 どこまで続ける気?」
「もう少しっ!風よ・・・刃と成せ!」
俺の左腕から伸びるように風が見えない刃を形成し そして崩壊する。
「風を集めるのは得意なのにね」
「あ 千佳ちゃん」
ここで従妹である澪と二人で魔術の特訓をするようになってから知り合った女の子-彦凪 千佳-が声をかけてくる。
「ほっとけ。それより そっちはどうなんだよ?的に当たるようになったのか?」
「失礼な…ちゃんと 当たりますっ!」
弓道部に所属しているらしいが 3ヶ月前までは弓を打つことさえ出来なかったのだ。
その成長速度には驚かされる。…俺のことには関係ないが。
「まぁ そういうことにしておいて。澪は…こっちに来い!」
二人の服のすそを掴んで引き寄せる。二人の居たあたりの魔力の流れが突然 変わっていた。
「まさか…ウィル様が言っていた極星帝国か?」
「戒!風を集めて…私 戦うからっ!」
「えと 私は・・・私は・・・」
風を集めながら すぐに移動できるように周りを確認する。その間も 魔力が集まってゆく。そして 姿を現した。
「お前達はマインドブレイカーか?」
マインドブレイカー 能力者の本来の力を解放する勢力とは異なる者。
そして 極星帝国が目の敵のように殺して回していると言われている者達。
「違う…だが 逃がしてくれそうに無いな?」
既に退路の確認はしているが その先も魔力の流れが普段とは異なっていた。
「何こいつら・・・マインドブレイカーって何よ」
普通の女子高生の千佳は 当然知らない事だっただろう。
「…違う世界から来た者。そしてその目的は」
「この地球の支配。そこの娘には 我らと共に来てもらおう!」
俺や澪は WIZ-DOMの能力者として戦闘に関する訓練はある程度は受けている。しかし 千佳は関係のない一般人。
「え?嘘…何するのっ!」
あっさり掴まり 瞬間移動したようにその姿は次の瞬間には消えていた。
「そんな!千佳ちゃん!」
「澪!…今は生き延びることが先決だ」
さっき確認した退路の先も 既に異形のものが姿を現していた。
特徴的な耳からして恐らくはエルフ族…消えたものの話からして極星帝国の者だろう。
「…ステラ様が 既に気が付いたらしいから持ちこたえれば良い。千佳の事は 俺達が倒れたら意味が無いだろう」
生き延びなければ千佳の事は 行方不明で終わってしまう。
だが 生き延びればWIZ-DOMなどの情報収集網などを使って探すことが出来るかもしれない。
出会ってから半年程度だが 見て見ぬフリなんて出来そうにない。
「そうだね。風たちよ!」
既にエルフ達は動き出していた。澪も迎撃体制に入る。
「澪!掴まれ…攻撃は任せる」
澪を抱き上げて エルフの攻撃が当たらないように最低限度で回避する。
「水よ・・・我等の身を守るための鞭と成せ!」
回避できない攻撃は 打ち落としてゆく。
それでも 2対6では徐々に押されてゆく。
「戒 このままじゃ二人とも…」
「分かってる…でも二人とも生き延びなきゃ意味は無いんだ!」
澪を死なせたくはない。そして 俺自身が死ぬ気も全く無かった。
「でもっ でもっ!」
「…方法が無いわけじゃない。…と思う」
回避しているうちに頭に浮かんだ言葉。
「あるなら試してよ!…私がどうなっても 思いは変わらないから」
さっきの発言で 気が付かれたのか・・・。
残された手段。それは 澪をマインドブレイクすること。
それは今の二人の関係の崩壊をも意味していた。
「生き残る手段が他に見つからないからな・・・澪 俺はお前の事」
その先を言う前に 精神を開放する。

- MIND BREAK -

「はぁぁぁ 風たちよ!私に力を!」
俺自身が個人的に支配していた風の精霊達も根こそぎ澪に奪われる。
「“ダウンバースト”!」
俺と澪を中心点に風が 一気に吹き落ちてくる。
そして エルフ達は吹き飛ばされ意識を取り戻したものも居るがさほど戦意は残っていないようだ。

「何があったんだ?これは」
いきなり吹き飛ばされたところに ステラ様が到着。
流石に 敵わないと見たのかエルフ達は引いていった。


それから すぐだった。
澪が 風の魔道師“レダ・ブロンウィン”を襲名したのは。


「元気そうで良かったよ」
「うん 千佳ちゃんを探さなきゃいけないからね」
あの事件から1年…。未だに 誘拐された千佳は見つかっていない。
だからこそ 探す。二人でそう決めた筈なのに それを忘れていた。
「そうだな。…澪 俺に指令を今度出してくれ。二人で地方の探索にいけるような・・・ね」
そっと横を見ると レダは高く空に輝く星々を眺めていた。


「さて…そろそろ会場に戻らないとな」
日付が変わってから1時間が過ぎている。
そろそろ戻らなければ ステラ様にばれるのだけは避けておきたい。
「うん…そうだね。新年挨拶に間に合わないと」
会場へ続く階段を駆け下りると その先には


ステラ様とクラリス様が 言い争いをしていた。
「だから 由希とはだな」
「あらあら ステラちゃんったら隠さなくてもいいのに~」


クラリス様はホムンクルス達と静かに年越しすると聞いたいたのだが…
話からして 恐らくクリスマスの事だとは思う。が その場に居なかったので詳細は分からない。
その現場を見れば面白いことが待っていたと確信できる。
「隠してなどいないと言うのに・・・」


由希が会場に居ない理由も分かった気がする。
追求しようとしていたのはクラリス様だけではなく 俺のパートナーであるジリアンさん達も気にしていた。
「…さて どうするかな」
「私はそろそろ新年挨拶があるから 行くね」
「・・・えぇ 了解しました。レダ様」
周りに人が居る以上 呼び捨てには出来ない。しかし そこにある確かな絆を感じ取れる。
「KAI。指令がおりたわ」
先ほどクラリス様とジリアンさんが 話していた事は横目に見ている。
…なるほどね。
「由希に直接問いただすつもりですか」
由希には悪いが 年始から楽しく過ごさせてもらうとしよう。

会場から少し離れた位置に転移方陣を描き出す。

今年こそは・・・千佳を見つけ出す。ジリアンさんや澪と共に。
そして極星帝国の野望を打ち砕く。このWIZ-DOMで
「行きますよ?ジリアンさん」
「いつでもいいわ」

いつになるかは分からない。
でも いつかは澪や千佳と共に居る世界を・・・ジリアンさんと共に