雪納、競争する

「カウントいくよー。スリー、ツー、ワン、レディ…ゴー!」

合図と同時に意識を、トライクへと移し、加速する。
路面良好、加速度異常なし。

隔たれた壁の向こうから鳴り響くモーター音。
「私は、負けません。こんどこそ!」

加速が終わる前に第1コーナーがやってきます。
ですが、この程度のコーナーではハイマニューバ型を名乗る私達、イーダ型にとって障害ではありません。
ここぞと、隣から聞こえていたモーター音を引き離します。

左に曲がる、こちらがイン側にあるのもあって、あっさりと音は遠くなり
直線に戻ると後ろから、モーター音が私の横を追い抜いていきます。

加速を再開させるものの、高回転域…高速仕様に調整された壁の向こうに
直線部分で追いつき追い抜くのは至難の業。


ましてや、相手は自動で動く…駆け引きも通用しません。

「ですが…、コーナーは私のものですよ」

第2コーナー、右カーブ。
あちらがイン側であっても、加減速自由、構造上壁を走ることが出来る私の方が
抜けるのにかかる時間はかからない。
続けての第3コーナーは左カーブ。

「勝負は…ここではなくて…」

抜けてから続く緩やかなカーブ。
それは、相手のコースが上に持ち上がり、交差する…レーンチェンジ。
その直後に始まる第4コーナー。

「ここからが勝負です!」

180度曲がってからの、第5コーナーは右への90度。
ここで引き離し、追いついてくる相手を、最後の第6左カーブでやりすごす。

「私の…勝ちですわ」

スタートラインにしてゴールラインを先に通り抜け私はトライクを減速させる。

「「え?」」

チェッカーをしていた神姫、アクスとそのマスターであるオメダさんが疑問を上げる。
何故でしょうか…と思ったのもつかの間、理由は分かりました。

なぜなら後ろから、対戦相手であったであろうブロッケンGが私を目掛けて走りこんできました。
ですが、相手はぶつかろうとも、止まることのないミニ四駆。
慌てて逃げようとしたそのときでした。

「ジェノサイドパーフェクション!!」

アクスが、ミサイルを一斉射撃。
憐れ、ブロッケンGとコースは瓦礫の山となってしまいました。

「…逃げましょうか」
「逃げるが勝ちってさ」
「逃げるとしよう」

0.3秒で全会一致した私達は、現状を見なかったことにして
この場を離れることにしました。

いえ、離れようとして振り向いたところでフリーズしました。
なにせそこには、鬼のような顔をした葵さんとマスターが居たのですから。