真那、デビューする

「さて、誰に頼むべきかな…」
神姫ショップの自動ドアが開き、中へ入ると開口一番、アタシ達に向けて声がかけられた。

「ここに来るのは分かっていた」
「よく来た挑戦者!お前の挑戦を受けてたとう!!」

そこに居たのは閣下と、その相棒アクス。
他に店に居た連中は人間も神姫も揃ってこっちに目を合わせようとしてくれない。

「ここに来るのは分かっていた」
「よく来た挑戦者!お前の挑戦を受けてたとう!!」

マスターと顔を見合わせる。
「ますたー、ほんき?」
「避けられそうにないし、仕方ない」

バトルロンドのID登録を行って、ブースに着く。
「そうび、どうするの?」
「ウィザードシステムⅠ"ナイト"でいこう。近接のみだけど、その方がいいだろ」
「がんばる」

ヴァローナ型とストラーフ型の装備を組み合わせて作られた近接戦専用装備。
羊と指輪が組み合わさったデザインマークの下にⅠの文字が入った箱がセットされる。
それを見てから、アタシは神姫用ポッドに入り込む。

『ステージはランダム、ルールは標準バトルロンド。いいな?』
「問題ない。始めようか」

マスターたちの声を背景に、アタシの意識は一瞬ダウンする。
そして、目を開くと、広がる砂、砂、砂。
目の前で、カウントダウンが始まる。

『開始と同時に右へ3歩跳躍。その後も回避優先』
カウントが0になると同時、マスターの言葉通りに3歩、飛ぶ。
その真横をミサイルが16発かすめていった。

「あぶない。ききいっぱつ?」
『…あと7回か?全力回避に専念してくれ』
その後もギリギリのところを回避…失敗。左肩のシールドが吹き飛ぶ。

『右肩のシールドパージ、ミサイルに向かって投げつけろ』
「りょうかい。なげつけるの」

反応が後れて避け切れそうになかったミサイルに投げつけて、ダメージを最小限に防ぐ。
そこへ、彼女はやってきた。

「デビュー戦だからって、勝ちをあげるつもりはないからね!ジェノサイドサーカス!!」
開口と同時に、それぞれが計算された僅かな時間差で放たれるミサイル弾幕。
「じゅうろく、にじゅうよん、さんじゅうに、よんじゅう…おおすぎ」
『ガードしつつ前へ跳躍2歩!着地と同時に右へアタック!』

両副腕でガードしながら、マスターの言うように2歩飛ぶ。
数発ガトリングが当たったけど、まだ大丈夫。
そして、右副腕と、そのハンマーをフルスイング。

「あっぶないねぇ。いい攻撃だけど、私に当てるには経験が足りないよ!」
右副腕の一撃は避けられた。けど、それだけでは終わらない!
そのまま、くるりと勢いに任せて身体を捻り、左副腕に装備してあるビームサーベルを起動。
避けた先のアクスを狙う。
「経験が足りないって、言ったよね」
アタシのビームサーベルは、アクスの持つ、ティグリース用の二又に割れた剣-朱天-で止められていた。
「いきおいのせてもたりない?」
「足りない足りない。戦闘とは、こうやるのさ!」

背中に衝撃が走る。
「がふっ」
「君が避けるのは想定済み。だからね、予め戻ってくるように仕込んでおいたのさ」

コンソールを確認すると左副腕からのエラー。
今のミサイルによる衝撃で接続部がダメになったようだ。
爆発防止にエネルギー系をダウンさせると、左副腕に繋がっているビームサーベルもダウンする。

「さあ、踊ろうか。神に、マスターたちに、ささげる最高の舞踏を!」
「まけない」

左副腕から左腕に持ち替えて再起動させ、ビームサーベルとハンマーで切り結ぶ。
アタシの攻撃も当たるものの、アクスへのダメージは低い。
逆にアクスの攻撃は避けきれず、少なくないダメージが蓄積していく。

「…思ったよりもやるねぇ。雪納の教育かな?」
ハンマーが弾き飛ばされる。
逆にハンマーがないならばと、背中の副腕をパージ。
両手で、ビームサーベルを構えなおす。

「いいね、いいね。その態度、その眼、まだ諦めないその闘志!でも、勝つのは私なのさ!」
アクスも全ての外装をパージし朱天を両手で握りなおす。

「いざ、じんじょうに」
「勝負!!」




気が付いたのは、ポッドの外、マスターの肩だった。
「ますたー、しょうぶは?」
「ぎりぎり負けだ。デビュー戦としては…大金星に近い」
「うむ。負けるとは思ってなかったが、あそこまで削られるとはな」
「あのタイミングでクリティカルヒットは辛いのさ」

アタシの中のログをあさると、最後の一撃でクリティカルヒットしたもののアタシのダメージが大きすぎたみたい。
「つぎこそまけない」
とは言ったものの、バッテリー消費が予想より大きかった。
だから…、おやすみなさい。くー…