B・H・Sヂェリーを飲んだ私は、身体のリミットが一時的に解除された暴走状態となる。
とはいえ、リミットを越えた稼動は長く持つはずもなくCSCへの負担も大きい。
その為、短時間で決着をつける必要がある。
「飛刃…閃竜衝!」
マスターが転送してくれた剣から見えない刃を放つ。
「合わせますわ!蒼剣裂閃!」
そこにタイミングを合わせて、雪納が切りかかる。
「本当に覚悟、してる?倒れてでも倒すという覚悟をさ!!」
風の刃は、真鬼王の腕から風を巻き起こして相殺。
アクス自身の腕で、雪納の手首を掴み攻撃を止める。
チャンプとはいえ、実力が高すぎる。
だが、時間をかける余裕はない。
ヂェリーの効果が切れればしばらく行動不能となり、残る1人に無傷で倒されてしまうことになる。
「だったら、これで!」
トライクモードへ変形、アサルトライフルと同じ外見のまま改造して作られた砲台。
エネルギーパックを複数取り付けて、そのエネルギーを圧縮、一気に開放する陽電子砲モードを起動。
「ターゲットロック…発射!!」
雪納が離れるタイミングに合わせてアクスを飲み込むように、光の奔流を解き放つ。
「うん、惜しかったのさ。当たっていれば勝ちだっただろうけど、ね」
真横から、アクスの声。
そっと振り向くとにこにこと笑顔の彼女が居た。
バトルモードへの変形を行うものの、攻撃が来るであろう隙は隠せない。
だが、その隙は雪納が体当たりをすることで消してくれる。
「我が名はリリシア。チャンプに挑む者なりて…いざ、参る!」
駆け出すのを見て、雪納を一瞥したアクスもこちらへとかけてくる。
その腕には朱天。
真鬼王サイズに作られたそれは神姫には大きすぎるとされている。
だが、そうとは思わせぬような力強さで振るってくる。
受けてしまえばこちらの刀ごと斬り砕くような一撃が、一息つく暇もなく断続的に繰り出される。
神姫の腕で幾度も振るえば、自身の腕のほうが先に破壊される。
それだけの破壊力、重量を誇る朱天を何故、何度も振るうことが出来る?
回避して懐へ忍び込むことを諦め、回避と状況把握に専念する。
彼女は確かに神姫の腕で朱天を振るう。
そこには、身体も回すことで遠心力を発生させる事で、重量を勢いに載せている。
ここまで勢いをつければ、剣の機動をとめることも難しいはずだが…。
「…持ち替えですわ。振るった勢いのまま、真鬼王の腕に持ち替えて次の攻撃に備えていますわ!」
アクスの後ろに控えていた雪納から、答えが明示される。
だが、それだけでは説明しきれない事が1つ残されている。
耐久性。
遠心力によって勢いを乗せるということは、腕にかかる負荷はただ持つよりも大きいものとなる。
違法と言うことはないだろうが…この力はどこからやってくる?
「朱天を振り回す力の源、耐える源が気になっているようだね」
「…その通りだ」
「これが、覚悟の力なのさ!覚悟を決めたものにこそ、心は、身体は付いてきてくれる!」
「なるほど…。ならば!」
一度離れて、剣を構えなおす。
余分な装甲はすべてパージ。
「我が覚悟、受けてもらおう!」
身軽となった体で駆け抜け、朱天に髪を切られながらも、もぐりぬけ、剣を振るう。
そこに障害はなく、アクスの頭を刎ねている…はずだった。
「私の覚悟に対して、1歩、届かなかったのさ」
私の剣を止めているのは、ビームサーベル。
そして、私の額にはハンドガンが突きつけられていた。
その姿勢のまま、アクスは後ろの雪納に確認を取る。
「さて、雪納はどうするかな?」
「私達の負け、ですわね。先ほどバッテリーは20%を切りましたから」
「だろうね。あんたは普段戦わない。その分、筐体でのバトルロンドは消費が大きいし」
バトルロンド中もアクセスがある分、バッテリーの消費は行われる。
ある程度は筐体から送られる電力によって軽減されるものの
その割合や、通電率向上や要不要判断は慣れていなければ難しい。
おそらくはそのことを指しているのだろう。
雪納に戦う意志がないことを確認してから改めて私に問いかけてくる。
「さて、リリシアだっけ。あんたに選択をしてもらおうか。私と雪納どちらにとどめ刺されるか」
「先に言っておきますが、私を選んだ場合は相打ちとさせていただきますわ」
そして、私は4位となった。