RO手記8

晴れ渡る天津の桜の舞い散る中、夜姫はそこに居た。
その隣には、春乃の姿もある。

夜「春…呼び出してごめんね」
春「いえ、気にしてませんから、大丈夫ですよ」

一瞬の沈黙が二人の間を流れる。

春「今日呼び出されたのも、ちょっとだけですけど、予想ついてますから」
夜「うん。じゃあ・・・」


ゆっくりと夜姫は、春乃へと近づいてゆく。
そして、彼女の手をとり、ある物を手渡した。



夜「…本当は僕じゃなくて、猫がやるべき事なんだけど…ね」



それは…銀の指輪。

“Haruno-HimeNeko”と刻まれた指輪。



春「夜さん…。気持ちは嬉しいですけど、その…」
夜「うすうす感じてたよ。僕も、月も。猫が居たから口に出せなかったけど」
春「…すみません」

春乃の眼の中に姫猫や夜姫の姿が存在しないこと。

それは冒険に出るようになってから、ほとんど一緒に居たからこそ、わかっていた事。

写っていることを望もうとした。

だが、それは春乃への負担となる可能性を持ってしまうだろう。

少しの間の沈黙。

先に口を開いたのは夜姫だった。

夜「でも、春は猫の気持ちにきちんと答えを出した。今はそれでもいいと思う」
春「本当にすいません…」
夜「僕自身は、どうなるか分からないけど、猫はずっと君を待つから」

今、この状況で一番辛いのは、振られた姫猫ではない。
心が優しい…いや、この場合は、優しすぎる事を原因として、春乃が辛いだろう。
それを感じながら、夜姫は言葉を続ける。

夜「君には幸せになって欲しいから、だからあの子は待つと思う。それは辛いことじゃないから」


戻ってくるかも分からない。
それでも、待つことを選ぶ。
それがあの子、猫の想い。

春「…はい。本当に…」
夜「それ以上はもう、言わなくていいから、抱え込まないで? 」
春「ぅぅ…ありが…とう…ございます」

二人の周りを風が踊り、舞い落ちた花びらを巻き上げてゆく。
それにつられ、見上げた空には、薄く黄色い月が太陽に寄り添っていた。