晴れ渡る天津の桜の舞い散る中、夜姫はそこに居た。
その隣には、春乃の姿もある。
夜「春…呼び出してごめんね」
春「いえ、気にしてませんから、大丈夫ですよ」
一瞬の沈黙が二人の間を流れる。
春「今日呼び出されたのも、ちょっとだけですけど、予想ついてますから」
夜「うん。じゃあ・・・」
ゆっくりと夜姫は、春乃へと近づいてゆく。
そして、彼女の手をとり、ある物を手渡した。
夜「…本当は僕じゃなくて、猫がやるべき事なんだけど…ね」
それは…銀の指輪。
“Haruno-HimeNeko”と刻まれた指輪。
春「夜さん…。気持ちは嬉しいですけど、その…」
夜「うすうす感じてたよ。僕も、月も。猫が居たから口に出せなかったけど」
春「…すみません」
春乃の眼の中に姫猫や夜姫の姿が存在しないこと。
それは冒険に出るようになってから、ほとんど一緒に居たからこそ、わかっていた事。
写っていることを望もうとした。
だが、それは春乃への負担となる可能性を持ってしまうだろう。
少しの間の沈黙。
先に口を開いたのは夜姫だった。
夜「でも、春は猫の気持ちにきちんと答えを出した。今はそれでもいいと思う」
春「本当にすいません…」
夜「僕自身は、どうなるか分からないけど、猫はずっと君を待つから」
今、この状況で一番辛いのは、振られた姫猫ではない。
心が優しい…いや、この場合は、優しすぎる事を原因として、春乃が辛いだろう。
それを感じながら、夜姫は言葉を続ける。
夜「君には幸せになって欲しいから、だからあの子は待つと思う。それは辛いことじゃないから」
戻ってくるかも分からない。
それでも、待つことを選ぶ。
それがあの子、猫の想い。
春「…はい。本当に…」
夜「それ以上はもう、言わなくていいから、抱え込まないで? 」
春「ぅぅ…ありが…とう…ございます」
二人の周りを風が踊り、舞い落ちた花びらを巻き上げてゆく。
それにつられ、見上げた空には、薄く黄色い月が太陽に寄り添っていた。