Each and all
『SA☆KU☆RE☆TSU☆ばたふらい』
Side アクス
私達の店はランキングサバイバルバトルロンドの他にも定期的なイベントを行っている。
その1つが最大16神姫で行われるバトルロンド。
ただ、目の前で繰り広げられている光景は舞踏であって武闘ではない…
『『『ナナちゃーん!!!』』』
「は~い☆」
完全にアイドルのライブイベントだった。
Side 雪納
普段は出ることのないバトルロンドですが
マスターに頼み、今日だけは特別に参戦しました。
それは戦うことが目的ではなく…
「ナナさまーー!!」
「は~い☆」
それは、アイドル神姫であるナナ様のライブが
私達の手によってこのバトルロンド内部で行われるからですわ。
Side Masters
バトルロンド筐体内でバトルロンドではなく神姫ライブが行われている。
それは異様な光景だった。
ライブ主演はもちろん、観客も神姫。
一部の神姫は法被を着ている徹底ぶり。
店長である閣下の様子からして店側も把握していなかったゲリライベント。
戦うために参加した神姫たちも想定外の光景に手を出していいか悩み、眺めているだけ。
なにせ、1人で挑んでも観客に逆襲されるのが目に見える。
「これは一体どういうことなのだ…」
「すまない、閣下。雪納が乗り気な時点で気がつくべきだった」
「起こったことは仕方あるまい。問題はどう抑えるかだ」
「まずはマスター達への告知をどうするんだ?」
「幸い、あの神姫の歌はチームメンバー全員にブースト効果を与えるもの。ならば、手は1つよ」
どうやって混乱を収めるか相談しているところに1人の男性が近づいてくる。
「うちのナナがすみません。こんな事を計画しているとは…」
「貴方があの子のマスターか。まぁ、心配しないでもらおう。協力はしてもらうがね」
これから起こる地獄を想像してか楽しそうに閣下の顔は笑い始めていた。
Side 真那
中央エリアの方から響く歌声。
マスターがコンソールシートに居ないから注意しながら近づいていく。
そこにあったのは、コンサート会場。
歌うシュメッターリングと、観客6人。
どうしようか悩むと、他の神姫…アクスさんから通信が入ってきた。
『ライブ会場に居ないよね?私のところにくるといいのさ。海人の了承も得てるし、イベント始めるからさ』
「わかった」
通信と一緒に届けられた場所に向かうと、そこにもアクスさんをはじめとした7人の神姫がいた。
「これで8人揃ったね。最後に確認させてもらうのさ。全員戦うために参加した、でいいね?」
Side Masters
「ライブ攻防戦…か」
「若干気は進まぬが、戦うために参加した神姫とライブを計画した神姫でのチーム戦となる」
特別イベント『ナナライブ攻防戦』
イベント終了条件:ライブ15曲終了
相手チームの全滅
相手チームリーダーを倒す
攻撃側リーダー:京香(タイプ:アーンヴァルトランシェ2)
防御側リーダー:ナナ(タイプ:シュメッターリング)
・所属チーム勝利した
・相手チームの神姫が1体倒れた
・相手チームリーダーを倒した
上記結果毎にランキングポイントが加算される。
「閣下。ルールはこれでいいとしても、数が一緒じゃないのは問題視されないか?」
「確かに問題なのだが、これに防衛側で参加したい神姫が居なくてな…」
現時点において、攻撃側8人に対して防衛側は7人。
通常の攻防戦であれば問題にならないが、防衛機構のないライブ会場。
かつ、リーダーであるナナはライブで歌う為、歌唱支援以外が、期待出来ない以上
人数的不利が大きいのである。
最低限、同数にしなければ対等とはとても言い難い状況であった。
「それでしたら私にアテが1人…ナナのファンが居るのですが、呼んでもいいでしょうか?」
「「是非」」
30分後、その男はやってきた。
「ナナちゃんのライブを守る戦いをやると言われて来ました!」
「マスター、私は何も聞いていないのだが…そういう事なら、何故もっと早く言わない?」
「え?あ、話す時間が惜しかったというか、僕とナナちゃんの結婚式だったらどうしようとか考えてたら話すの忘れたとか
ソンナコトハナイヨ?」
「いつも、目を見て話せと言っているだろう?」
「ハイ、スミマセンデシタ」
この男と神姫は漫才コンビか何かなのだろうか?
事情を説明し、神姫が乗り気になったところでバトルロンドへの参加準備をしてもらう。
その神姫は、凛とした表情でバーチャル世界へと入っていく。
Side 真那
作戦はさくさく決まった。
地上からの攻撃隊と上空からの強襲部隊に分かれて、タイミングを合わせての襲撃。
あたしは地上からの攻撃。
マオチャオタイプのシロと一緒に会場に向かって進んでゆく。
視界に入ったのは、椅子に座ってカップでなにか飲んでる神姫だった。
「ごきげんよう。君たちもここに座って静かにあの方の歌を、聴くといい」
「………」
さっき見た顔ぶれの中に居なかった事、そして、この言動からして、彼女は紛れも無く敵。
だが、その雰囲気は落ち着いており、殺気を放つこともない。
「私は君たちがここを通ることは止めたりなどしない」
「通ってもいいの?」
「そう、君たちがこのナナ様のライブを止めようとしない限りは必要ないからね」
「それなら、このドリルのサビにしてくれるにゃ!」
シロがそう発した瞬間、殺気が放たれる。
「ふにゃ?!」
否、真那の隣に居たはずのマオチャオが後ろへと吹き飛ばされる。
その攻撃の瞬間は、真那もマオチャオも視認出来ていない。
「まずは1人。戦いとは優雅に行うものだ。例えば、この紅茶をこぼさないように、ね」
「意味分かんない」
昔の漫画であったという特訓でもあるまいし、バトルロンドの最中である。
そんな余裕は命取りとなる。
だが、目の前に居る神姫は、彼女はそれをやってのけた。
「そういえば自己紹介がまだのようだ。私の名はヒルデ、ヒルデガルドという」
「真那」
「いい名だ。では、そろそろ始めるとしようか」
ここに、バトルロンドを取り戻すための戦いの幕が開ける。