Each and all
『KIRARI☆カエリミチ』
Side ヒルデガルド
隙を見て1撃で1体倒したとはいえ、状況は不利であり、予断を許さない。
視えている相手は、目の前に居るヴァローナタイプ…真那のみ。
ヒルデの結論は早かった。
問題は1つだけ。
相手に気付かれない内に、増援が来ない内に倒さなければならない。
だが、後ろにはナナ様がライブ中である。
歌によるブーストを受けている今ならば。
そう踏んで、彼女に対して攻撃を仕掛ける。
だが、その攻撃の全てが当たらない。
攻撃そのものはあたっているのだが、狙った場所に決して届いていない。
「私の攻撃を全て見切っているというのか」
「どこ を ねらうか は わかる から」
このままでは埒が明かない。
「主、武装を」
『まだ序盤だけどいいんだな?』
「このままではライブを聴くことも出来ないからな」
『それは一大事だ!全力で行こう』
服が光の粒子となり、光の粒子が武装パーツへと変化する。
形成が終わる前から振り下ろすが、真那の方も武装をしていたために塞がれた。
「ねらい は わかる よ」
主との通信をしている様子はない。
それでも、武装を的確なタイミングで送り込んでくる技術。
それを信じて動く神姫。
「素晴らしい。このような神姫に会えるとは……ナナ様に感謝するしか無い」
「よそみ は あぶない よ」
攻撃が急所に入るのを防ぎつつもこちらの隙を伺う彼女は舞うに相応しい相手だろうか。
ナナ様のライブが2曲めが終わるのを聴きながら考える。
その間も、攻撃の手を緩めるつもりはない。
袈裟懸け、刺突、斬り上げ、横薙ぎ、蹴り、跳躍からの振り下ろし。
相手の動きは鈍い。だが、一撃だけはもらわないように動く。
私の動きが最適化されていない遅い動きとはいえ、これについて来れるとは……。
「だが!」
♪私の手を取り 導いて 連れてって 君が望む未来へと
ライブの3曲目は全ての演算能力が加速する効果を持つこの歌。
雑音が入っているが、この曲の間にケリをつける。
段々と最適化を行い、攻撃のテンポが上がるのにあわせて真那の足は動きを止めてゆく。
斬り上げて蹴り、防御を弾いたところでの横薙ぎ。
それを防ぎに来るもう1つの防御を刺突で弾き飛ばし跳躍する。
「これで…」
「これ で おわり」
♪一緒にいて いつも見てて 空から光降る時も
「させませんわ!このお馬鹿さん!!」
真那に我が剣が突き刺さる直前、イーダ型に体を殴り飛ばされる。
直後に、私が居た場所を巨大なビームが突き刺さる。
「この、お馬鹿さん!」
「助かったが、お馬鹿さんはないだろう、お馬鹿さんは」
「通信を無視して、ライブを忘れて、戦いに熱中する人はお馬鹿さんだわ!お馬鹿さん!」
見上げると奇襲に失敗したことを察したのか下がるアーンヴァルの影が見えた。
真那もいつの間にか姿を消し、残っているのは目の前のイーダ型…ファンクラブNo.0000004の雪納だけとなっていた。
「本当にもう、お馬鹿さん!レーダーが探知して通信しても出ないですし」
「それは済まなかった。だが、そろそろお馬鹿さんと呼ぶのはやめてもらえないか」
「仕方ないわね。…では、会長、この防衛ラインは放棄、次のラインまで撤退するわ」
再三の抗議でようやくお馬鹿さん呼ばわりを訂正してもらうが
私はこのようないぢられキャラだっただろうか?
否。これはこの分は後で主をいじり倒すとしよう。
トライクを点検しながら武装モードからトライクモードへ変換させていく雪納の後ろへ回りこむ。
♪油断したら カエリミチで 二人の影をひとつにする
「了解した。連れて行ってくれるのだろう?」
「それもあって私が来たのだ…わ……?」
だが、雪納の体はドリルに貫かれていた。
地中から現れたマオチャオのドリルによって。
「にゃはははは!油断大敵にゃのだ!三重の攻撃には耐えられまい!」
「……我が仲間の、同志の敵取らせてもらう!」
体を反転、滑りこむようにトライクを装備。
多少扱いにくいが、動き自体は素直なこのトライクはメンテが行き届いている。
ならば、行ける。
武装モードへ変更。それと同時にマニピュレータでマオチャオをつかみとる。
腕も一緒につかむことでドリルは使わせない。
「おにょれ!我がドリルがつかえにゃいじゃにゃいかー!」
「マスター!」
『銃火器だな』
トライクについていたアサルトカービンを右手に持ち
左手に見覚えのある重みを感じると同時に、マオチャオに向けて発砲。
どれだけ耐久力と装甲が上がっているのかアサルトカービンとを
弾切れになるまで撃ち続けようやく耐久力を削りきって光の粒子にさせる
敵1人倒すのに犠牲は大きかった。。
「雪納……、君のことは忘れない……。我が胸に刻もう」
「い、生きてますわよ…」
何も聞こえなかった。
私は何も聞いていない。
幽霊なんか信じていないのだ。